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日本近代小説

愛の生活・森のメリュジーヌ 金井美恵子

金井美恵子の文壇への登場は1967年。彼女はそのときまだ19歳でした。大好きな石川淳に読んでもらいたくて、当時彼が選考委員を務めていた「太宰治賞」に応募したことが、彼女が文壇デビューするきっかけとなったのですが、すでにその処女作にして、彼女の文…

幼児狩り・蟹 河野多恵子

ぼくが戦後に活躍した日本の女性作家で最も尊敬する方が河野多恵子(1926-2015)さんなんですが、晩年まで精力的に執筆をされ、傑作を次々と書き継ぎながら、惜しくも2015年に亡くなられました。 個人的には、河野多恵子さん、金井美恵子さん、江國香織さん辺…

蛇淫 中上健次

中上健次の代表作といえば『枯木灘』(1976)『千年の愉楽』(1982)をあげるのが一般的でしょうけれど、僕は違う作品をレビューしたいと思います。 実際『枯木灘』や『千年の愉楽』は確かに、日本近代文学史に残る偉大な傑作なのは疑いないですけれど、多少疵が…

田紳有楽・空気頭 藤枝静男

藤枝静男は〝私小説の極北の作家〟とよくいわれるみたいですけれど、その通説は常々間違っていると僕は思っていて、断固反論したいと思います。 正当な小説を書いた人こそが彼だ、というのが僕の藤枝静男評価で、この講談社文芸文庫版には彼の文学に磨きかか…

われ深きふちより 島尾敏雄

これは後に16年をかけて大作として纏まる島尾敏雄の名著『死の棘』(1977)の後顛末と呼べるべき作品集です。『死の棘』では妻が狂気に瀕し、精神病院に入ってしまうまでの、夫と妻とのあいだでのああでもないこうでもないといった堂堂巡りのやりとりが淡々…

挟み撃ち 後藤明生

後藤明生にとっての最高のもののひとつであると同時に、1970年代の日本の文学においてもとてもいいものなんじゃないかなと、僕は思っています。日本の戦後文学を考えた中でも、とても重要な作品だとも。『挟み撃ち』(1973)というこの小説、とにかく、唐突、…

楢山節考 深沢七郎

「楢山節考」(1956)は中央公論新人賞を受賞した深沢七郎のデビュー作です。当時文壇を震撼させた、日本近代小説史における衝撃作のひとつです。 いわゆる<姥捨て>の民間伝承を、作者が創作して小説化したものですが、この作品にある独創性は、最後につけられ…

プールサイド小景・静物 庄野潤三

庄野潤三という作家の本を最初に読むなら、この新潮文庫版の作品集が僕はいいと思います。さらに最初に収められた「舞踏」から順を追って読むことを、個人的にはお勧めします。江國香織さんが庄野さんの影響を受けていて解説を書いていたりしているせいか――…

抱擁家族 小島信夫

戦後以降に登場した日本の作家でいちばん優れた人が小島信夫だと個人的には思っているんですが、――あくまで僕の意見ですので――、小島信夫の最も代表的なのがこの『抱擁家族』(1965)で、戦後文学史にとっても間違いなく重要な作品で、これを論じた文芸批評家…

俘虜記 大岡昇平

大岡昇平が第二次世界大戦終結後、五年をかけて完成した最初の小説集。当時は三部に分かれて上梓されました。友人であり先輩であった評論家の小林秀雄に、「魂のことを書け」といわれて、「いや、事実を書く」といってこの小説が執筆がされたという有名なエ…

ひかりごけ 武田泰淳

日本文学の「戦後派」と呼ばれる中で好きな作家はたくさんいますけども、代表的な人が武田泰淳かなと思います。泰淳はもともとお坊さんで、中国文学を勉強していました。戦争に引っ張られて、その中国の戦線へ行くことになって、中国は泰淳にとってあこがれ…

夫婦善哉 織田作之助

織田作之助を戦後一躍人気作家にした出世作「世相」で、作者は主人公にこんな言葉を吐かせています。 「まアね。僕らはあんた達左翼の思想運動に失敗したあとで、高等学校へはいったでしょう。左翼の人は僕らの眼の前で転向して、ひどいのは右翼になってしま…

普賢・佳人 石川淳

「普賢」は、石川淳が昭和12年に芥川賞を受賞した作品ですが、ここに収められた短篇諸作品は、彼の初期にあたる作品集なわけですけれど、実はこれより前、既に大正時代に一度小説家として彼は文壇に登場しています。その頃の著作も出版されており、それらの…

白痴・二流の人 坂口安吾

文壇デビューのきっかけとなった「木枯の酒倉から」「風博士」、若かりし二十代の頃の〝ファルス〟と呼ばれるそれら初期作品から、流行作家となった戦後の代表作「白痴」「青鬼の褌を洗う女」まで、年代順に八つの代表的作品を集めた坂口安吾の短編集。 坂口…

業苦・崖の下 嘉村磯多

「破滅型」の作家の代表格である嘉村磯多の作品集です。僕は自然主義の小説(私小説)はあまり好きじゃないんですけれど、とにかく嘉村磯多の作品は文章が素晴らしいので、内容がどうであれ、文章だけでも読ませてしまうというよさもあると思います。そして幾…

檸檬 梶井基次郎

梶井基次郎とは、未完の器ながら、様々な可能性を秘めた傑出した小説家だったことを声を大にしていいたいと思います! 31歳で夭折したこの作家は、尽きせぬテクストを残して、実際「檸檬」、これ1作だけでも、文学史上に燦然とした輝きを残す作品です。梶…

日輪・春は馬車に乗って 横光利一

川端康成と並んで、昭和初期から活躍した「新感覚派」の旗手、横光利一の初期作品集。代表的長篇は『上海』『旅愁』辺りですが、――これらは講談社文芸文庫で読むことができます、『上海』は青空文庫にもあるみたいです――ただこの初期作にも、彼の代表的な作…

伊豆の踊子 川端康成

今回も声を高らかにしていいたいです。日本近代小説の最高峰は川端康成です。なぜ彼が幾多数多の文豪たちを押さえて、日本文学で最高の小説家なのか。それをいうために、今回のレビューは参りたいと思います。 新潮文庫のこの『伊豆の踊子』は川端康成の初期…

浮雲 二葉亭四迷

あまりにも有名な二葉亭四迷の『浮雲』。これは日本で最初に言文一致で書かれたといわれている作品です。そのような意味合いにおいてだけでなく、重要作だとか記念碑作だとかの範疇を超えた、あらゆる枠組みを突き破る、今尚「古典」から逸脱した衝撃作だと…

歌行燈・高野聖 泉鏡花

泉鏡花を読むという行為は、今はひどく難儀なものかもしれません。物語に意味を読み解くことが通常となっている今日では、鏡花の小説はその言語感覚においてだけでなく、その様式美そのものが、いたって古臭いものだからです。けれど、当時鏡花が活躍した時…

小僧の神様・城の崎にて 志賀直哉

これは志賀直哉がおおよそ30代のころに書いた、中期にあたる代表的短編を集めた作品集です。1917年から1926年くらいまで、年号でいうと、大正6年から昭和にちょうど入る時代です。志賀直哉という人は日本の近代小説における「小説の神様」といわれ、その簡潔…

痴人の愛 谷崎潤一郎

谷崎は時代的にも、その反骨精神的にも志賀直哉なんかと比べられたりするみたいですけれど、僕にとって谷崎は漱石と比べるのが相応しい、自分の中での日本の小説家の2トップです。書いている作品も、仕事の軌跡も、小説に対する考え方も、この2人はまるきり…

こころ 夏目漱石

夏目漱石の面白い小説はなにか? 前期、中期、後期からひとつずつ代表作をあげるとすれば、『草枕』『それから』『こころ』辺りじゃないかなと僕は思うんですが、さらに傑作を凌駕する力作にあたるのが、最初の『吾輩は猫である』と最後の『明暗』かな、と思…