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春信一番!写楽二番! フィラデルフィア美術館浮世絵名品展 に行ってきました。

美術展覧会レビュー

 

 三井記念美術館で開催されている「特別展 錦絵誕生250年 フィラデルフィア美術館浮世絵名品展 春信一番! 写楽二番!」に行ってきました。

 みんな大好きな、あの浮世絵です。お客さんもいっぱいでした。

 今回は、浮世絵の創世記から、北斎、広重までズラリと、いわゆる「浮世絵の全体像」を鑑賞できる展覧会内容で、北斎や広重のいいとこどりだけ、とかの展覧会はけっこうあるんですけど、こういう浮世絵の歴史を俯瞰できる展示は、とても珍しいと思います。ゆえに、内容も非常に濃いものでした。

 

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www.mitsui-museum.jp

 展示は全部で五章に分かれています。「錦絵以前:浮世絵版画の始まり」「錦絵の誕生:春信の浮世絵革命」「錦絵の展開:清長、歌麿、写楽」「錦絵の成熟:北斎・広重」「上方の錦絵:流光斎・長秀」とつづていきます。最初に三井記念美術館所蔵の工芸品の展示もあります。

 ぼくは鈴木春信という浮世絵師がすごく好きなので、今回は彼を観に行ったようなものです。展示会のタイトルにもあるように、春信と写楽が主役で、春信は30点、写楽は10点まとめて観ることができる内容なのです。非常にレアなケースです。ふたりの展示内容に関しては、やはり圧倒的な充実感がありました。

 

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 鈴木春信 「風俗四季哥仙 五月雨」 (明和5・1768年頃)

 もともと浮世絵のはじまりは、少し前の時代に流行った「ブロマイド」なんかを想像してもらえたらわかりやすいんじゃないかなと、ぼくは思います。鈴木春信が中心となって作られた「錦絵」が、つまりカラーで印刷できるようになって、庶民に非常に受けたわけです。最初に流行ったのは、春信のような美人画で、そして役者絵でした。歌舞伎役者は江戸の庶民に大人気だったので、まあ芸能人です、そういう絵を皆もすごく欲しがったわけです。

 それで役者絵といえばこの人という、今回のもうひとりの主役である東洲斎写楽の絵もまとめて今回は鑑賞することができたわけですが、彼もまた別格中の別格だったのは、明らかで、凄すぎです。

 

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 東洲斎写楽 「三代目市川高麗臓の志賀大七」 (寛政6・1794年)

 東洲斎写楽は謎の多い絵師として、有名です。わずか一年足らずのあいだに140点あまりの絵を描きつくし、突然姿を消したのです。役者のデフォルメが行き過ぎて、あまり当人に似ていない絵を描いています笑。彼自身筆を折った理由を、「あまりに真を画かんとてあらぬさまに書なせしかば、長く世に行われず、一両年にして止む。」といっています。つまり、真実に迫ろうとしたあまりに、よくないことまでも描いてしまうことになったので、自分の絵は長続きしなかった、といっているわけです。

 本来ブロマイドを描かなきゃと思って描きはじめたら、独特な作風を持った、人間性まで描きだす芸術作品を次々描いちゃったんで困ったってことです。信じられない人です。

 

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 初代喜多川歌麿 「歌撰恋之部 稀二逢恋」 (寛政5-6・1793-94年)

 美人画といえばこの人、喜多川歌麿にも触れておきます。彼の作品も何点が展示されてありました。大胆な線で、非常に繊細な表情を表現する技術は、この人が随一じゃないでしょうか。映画でいう、クローズアップの技法に近い術です。些細な仕草、表情で、内面を描き出してしまう絵には、本当にいつも見惚れてしまいます。

 あと渓斎栄泉もいい絵師だな、と今回は再発見もあって、彼は初期の頃の絵師ですが、一筆斎文調という、彼についてはまったくノーマークだったんですけど、4点展示されてあって、彼も素晴らしかったので、それも発見があったといえる展覧会でした。

 

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 葛飾北斎 「富嶽三十六景 甲州三島越」(天保元-3年・1830-32頃)

 それで最後に、北斎にやっぱりぼくは触れておきたいです。今回は数点くらいしか展示されていなかったですけど、もう明らかに格が違うのがわかりました。「富嶽三十 六景 甲州三島越」(天保元-3年・1830-32頃)、「雪月花 隅田」(天保4-5年・1833-34年頃)とか、凄かった。やっぱり天才です。人間技を超えています。歌川国芳も何点かあって、「風俗女水滸伝 百八番之内 林冲」(文政末期・1818-30年頃)が、個人的には素晴らしかった。広重の江戸百 景ももちろん最高でした。

               ※               ※

 日本の浮世絵は、西洋の画家たち、とりわけ印象派たちの画家たち、モネやゴッホやホイッスラーやボナールなど、つまり近代的な絵画革命に決定的な影響を及ぼしたことについては歴史的にすでに自明ですけれど、いったいなにが彼らをそれほど衝撃的に震えさせたのかというと、これはもう西洋と日本との違いにある絵の技法にあったといわざるを得ないです。

 流麗な線や大胆な画面構成、豊かな色使い、奥行きを消滅させた平面的視線。エキゾチックな感覚も刺激性を増幅させた要素だったんでしょうけれど、それまで鎖国をしていた日本は西洋とはまったく異質な歴史を歩んでいたわけで、絵にもそれがはっきり表れていたのです。とにかく江戸の後期にかけてだんだんと花開いた浮世絵という美術ジャンルは、日本の歴史を代表する独自の象徴的文化だといってよいです。

 やはり日本画の展覧会は、館内が寒いです笑 

 皆さん必ず上着を持って、展覧会は訪れましょう。最近、素晴らしい企画展の充実ぶりに驚いています。日本企業がんばってます。