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もうひとつの輝き 最後の印象派 1900-20’s Paris に行ってきました

 

 西新宿にある東郷青児記念・損保ジャパン日本興亜美術館で開催されている「もうひとつの輝き 最後の印象派 1900-20’s Paris」に行ってきました。

「最後の印象派」とのことなんですけど。出品予定の作家を見ると、カリエール、アマン=ジャン、ル・シダネル…と、聞いたことのない名前ばかりで、大丈夫かな、というのがぼくの最初の印象で、実際行ってみて、ひとりも知らない画家ばかりでした笑 

 彼らはちょうど20世紀が始まる頃フランスで活躍しはじめた画家で(フランス人に限りません)、当時はマネやモネ、つまり「印象派」という、その新しい近代美術の技術革命が起っていたんですが、それらに影響されながらも、さほど前衛的な芸術運動に加わらなかった一団です。なので、彼らは後に発展していくマチスらの「フォーヴィズム」や、ピカソらの「キュビズム」らのモダニズムの影響をまったく受けていません。古風な作風を後もその作品に保ちつづけました。

 それらの画家たちの意図するものはなにか。それを一考するのに、とてもよい機会を与えてくれた展覧会だったと思います。

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www.sjnk-museum.org

 

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 アンリ・マルタン 「野原を行く少女」(1889) 油彩、キャンバス 62×205

 というわけで、ぼくも初めてみる作家作品ばかりだったのですが、アリ・マルタン(1860-1943)の「野原を行く少女」は、ぼくはいいなと最初に思いました。絵の具を混ぜ合わせない色の置き方は、印象派技法そのものですが、モネが「光」を描こうとしたのに対し、マルタンは太陽の下に包まれた日常の一瞬に宿る物語をカンバスに捕えようとしているように見えます。

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 アンリ・ル・シダネル 「赤色のテーブルクロス」(1931) 油彩、キャンバス 100.5×81 ドゥエ・シャルトルーズ美術館

 ほかだと、アンリ・ル・シダネル(1862-1939)の絵にも同じことがいえて、この「赤色のテーブルクロス」など、タイトルからしてとても色彩を強調した作品ですが、マチス的フォーヴは一切見られません。あるいは、シャルル・コッテ(1863-1925)という画家などは、カミーユピサロにとても賞賛されたらしいですが、同じ印象派でも、それらピサロシスレー、さらにそれ以前の写実主義自然主義といわれたミレーやクールベの作風に近い印象が(まるで時代を遡るように)漂っているようにぼくには思えました。

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 パリの印象派からはじまる、大きく変化を遂げ発展した近現代美術の歴史をひも解く場合、通常そのモダニズムへ、さらに表現主義、抽象表現へと変遷を遂げていく歴史を紹介するの がお決まりの展示内容なのですが、よってこれは一風変わった展覧会だといわざるをえません。有名作家の作品がひとつもありません。こういう画家たちがいた、というより、実は当時それら前衛的と呼ばれた芸術 家たちより、彼らのほうがパリの画壇では高く評価されていたというのは、意外と省みられていないことを知らしめるのが、この企画展の意外なテーマかもしれません。

 今は印象派の礎となったといわる歴史的傑 作とされているマネの「草上の昼食」がサロンに落選したことは有名な話ですが、ゴッホも生前はたった一枚しか絵は売れず、近代画家の父といわれるセザンヌ も当時まったく無名でした。今歴史で名を馳せている画家たちの多くは、生前に正当な評価を受けた人はほとんどいません。

  19世紀当時、ヨーロッパでは芸術家になりたければパリへ行け、が合言葉になっていたのは、「サロン」の存在をなしに考えることはできません。マネやモネ だけじゃなく、ロートレックモディリアーニもルソーも皆、サロンとは無縁です。それまで画家として名声を得るには、サロンで入賞しなければならなかったのです。しかし、印象派が美術の歴史を変革しました。

 今でもどんな分野でもあるわけですが、とても偉い人たちが評価し賞を与え、「権威」があったのが当時の画壇であり、それらの保守 的な老獪に反発して新しい芸術運動を起こしたのが、「印象派」といわれた、それら、へたくそ、未完成、素人、テーマがない、などと揶揄された画家たちであって、実はそれが20世紀のモダニズムの潮流を大きく変えていくこ とになっていったのです。理由は大衆たちが、それら印象派らの作品を支持したからです。

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ガストン・ラ・トゥーシュ 「長椅子」 油彩、いた 60×66 アリ・ジャン画廊

 今回の企画展示で、ぼくがいちばん気に入ったのは、ガストン・ラ・トゥーシュ(1854-1913)のこの「長椅子」という作品で、それほど大きくないカンバスなんですけども、窓からの光彩が不思議な厚塗りで部屋に幻想的な陰影を作り、人物の表情にもそれがみごとに反映されています。タッチはやはりモダニズム的なんですが、描こうとしているのは、あくまで「題材」に宿る物語性にあるんですね。

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 グランマ・モーゼス 「イギリスの別荘の花園」 1940年頃 刺繍 クランマ・モーゼス財団

 今回のこの展覧会は、1900年に設立された「ソシエテ・ヌーヴェル」に所属した画家たちの作品にスポットライトがあてられています。

 彼らは同時代の新しいとされた印象派の 影響を受けましたが、技法は踏襲しながらも、誰もが古風な作風を保持しています。そのためか、正統的な評価を得て、当時パリの画壇を主導した立場を保持し、ロダン(言わずと知れた近代彫刻家の父)が会長を務めたり大きな影響力をさらに持つに至るのですが、第一次世界大戦終結頃に、その役割も終えていくことにな ります。

 印象派からはじまるモダニズムの近現代絵画とはなにか。それをまた別の角度から考えるに相応しい展覧会かな、とぼくにはとても思えました。常設のセザンヌゴッホゴーギャン東郷青児グランマ・モーゼスの絵も鑑賞できます!