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風景画の誕生 Bunkamuraザ・ミュージアム に行ってきました

美術展覧会レビュー

 

 渋谷・東急本店横のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生」展覧会に行ってきました。

「風景画」のみに着目した、一風変わった展覧会です。風景画の起源は17世紀のオランダを中心とする文化圏にあるといわれますが、ハプスブルク家の所有物であったウィーン美術コレクションから「風景画」のみを厳選して、その誕生と発展を追っていく催しなんですが、フランドル絵画というならば、ルーベンスやヴァン・ダイク、風景画というならば、ブリューゲルフェルメール等展示されるかもと期待に胸が躍りますが、それら名匠たちの作品はひとつもありません。ティツィアーノが一点だけありましたが、名画を鑑賞しに行く、という気持ちでいくと、ちょっと肩透かしを食らうかも、です。

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www.bunkamura.co.jp

 展示内容の大きくは「第1章 風景画の誕生」と「第2章 風景画の展開」に分かれていて、さらに「第1節 聖書および神話を主題とした作品中に現れる風景」、「第2節 1年12カ月の月暦画中に現れる風景」、「第3節 牧歌を主題とした作品中に現れる風景」、そして「第1節 自立的な風景画」、「第2節 都市景観としての風景画」と、さらに1章と2章が細かく展示内容が分れています。

「第2節」のレアンドロ・バッサーノ、マルテン・ファン・ファルケンボルフの連作は、今回の展示のでのひとつの見どころでしょう。西欧におけるカレンダーとは、12/25のイエスの誕生と、12/8の無原罪の御宿りの意識が育んだものですが、同時に人間の営みと分かちがたく結びつく農耕・農事の意識もまた潜み、それが画家たちの手によって風景画として発展していくきっかけになります。

「第3節」で扱われている〝牧歌〟というテーマは、聖書に現れる楽園のイメージから来ているわけですけど、これもまた農耕を起源に持ち、牧畜と結びつけられたものです。最初に牧歌を主題として絵を描いたのは、紀元前3世紀前半のギリシアのテオクリトスという画家だそうですが、彼は悦びの地をシチリアとして謳い、後にこのイメージはギリシアの「アルカディア」に結びついていきます。

「牧歌」を主題に置くとき、絵において木はよく用いられるモチーフになります。人々にとっては木の存在には「木陰」が重要な意味を持ち、それは「休息」を意味し、さらに「平穏」「安らぎ」、そこでの語らいによって「愛」にまで発展される意味を持ち、〝死〟が同等に語られることにおいて、昼の光も生々しいものとして映る、というのが「牧歌」の正しい解釈です。

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 ヤン・シベレフツの「浅瀬」(1740-50年頃)

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 アダム・ベイナーケルの「ディヴォリ付近の風景」(1648年頃)

 個人的にはこの「第3節」辺りから、興味を抱かせる作品が現れてきました。ほとんど映画的といってもよい作品が登場してきます。中でもアドリアーン・ファン・デ・ヴェルデの「羊飼いと家畜の群れのいる風景」(1664年)、ヤン・シベレフツの「浅瀬」(1740-50年頃)、アダム・ベイナーケルの「ディヴォリ付近の風景」(1648年頃)は傑作でしょう。とりわけべイナーケルは、光の加減が効果的に扱われ、独特なタッチを持っています。やはり木が描かれ、水辺の畔には船が停泊しています。道行く人々の動きと、語らうふたりの人物たちの動作が、〝風景〟の中に一同にとらえられています。

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 アールト・ファン・デル・ネールの「月明かりの下の船のある川の風景」(1655-70年頃

 第2章における「第1節 自立的な風景画」には、名品がズラリと並んでいる印象でした。架空の風景ではなく、現実の風景が、ここには完全に現れていて、これはカトリックからプロテスタントへの西欧における宗教的自立と大きな関係があるといえそうです。この辺の解釈も、牧歌解釈同様、とても面白いといえます。

 ヤーコブ・ファン・ロイスダールの「渓流のある風景」(1670-80年頃)は傑作に思えましたし、「メルヴェデ川越しのドルドレヒトの展望」(1644年)という作品が展示されていたヤン・ファン・ホイエンは、17世紀のオランダの重要な画家のひとりで、これもよかったです。個人的にはアールト・ファン・デル・ネールの「月明かりの下の船のある川の風景」(1655-70年頃)が、とても気に入りました。

                    ☆            

 風景画は肖像画のように、今では当たり前に定着した一美術形式ですが、16世紀後半から18世紀にかけて、静物画と同時期にフランドル、オランダ、イタリアで発展し、とりわけフランドルでは独立したジャンルへと変貌を遂げました。それ以前からその源泉とみなされるものはあったとして「神話」を主題にした絵にも「風景画」をとらえた、その当たり前としてあったものをどう解釈して鑑賞していくか、という今回の展示内容は、やはり特異なものといってよいでしょう。

 フランドル美術といいながら、その代表選手のブリューゲルの作品が皆無ですし、或いは自然主義ロマン主義の風景画家たち、コロー、ミレー、コンスタブルターナーらの風景画が観たい、という方にはちょっと不向きな展示内容かな、とは思いますが、パンフレットに書かれてあるように、「風景画の誕生と発展を、歴史の旅をするかのように個性豊かな作品を通して楽しむ」展覧会としては、見ごたえはある、と思いました。