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アルフレッド・シスレー展 に行ってきました

 

 練馬区立美術館開館30周年記念 アルフレッド・シスレー展 ―印象派、空と水辺の風景画家― に行ってきました。会期は9/20(日)~11/5(日)までです。

 

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練馬区立美術館:練馬区公式ホームページ

 

 練馬区立美術館は、練馬区がコレクションし開催している区立の美術館です。西武池袋線の中村橋という駅から徒歩三分のところにあります。小さな美術館ですが、動物のオブジェがたくさん置かれた緑豊かな公園が広がる中にあり、今年の四月には「没後100年 小林清親展」を開催していましたし、来年には歌川国芳月岡芳年らの浮世絵展も控えており、充実度は高いです。

 リニューアルオープンしたてで、開館30周年記念、ということで、特に今年は力が入っている感じです。

 それでこの秋に開催されたのが、シスレー展です。

 今ちょうど上野の東京都美術館で「モネ展」が開催されています。そのモネらに代表される19世紀の「印象派」の巨匠のひとりと数えられるのが、このシスレーです。彼は生涯を通して、イル=ド=フランスの風景を描きつづけた画家です。

 

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 アルフレッド・シスレー 「麦畑から見たモレ」 (1886 油彩・カンヴァス)

 たとえば今回ぼくが気に入ったのは、この作品とかなんですけど、実に荒々しいタッチで、強風に震える樹木の様子がみごとに描かれていると思いました。

 シスレーの筆は、「筆触分割」といわれる、色彩をパレットで混ぜ合わせず、多様な色で描くモネ同様の「印象派」の技術を踏襲していますが、なぜそのように描くか、というと、印象主義とは、「現在」を捕えることであり、まさにシスレーの作品には、夕刻や冬の光に溶けこんだ空や草花の鮮やかな一瞬の景色が、肌身に感じるように捕えられているのがよくわかります。

               ※               ※

 なぜ印象派の画家たちが、こぞってそのような「思想」にとらえられたのか。少し長くなりますが、書きますと、当時、印象派たちの新しい画家たちは、美術に革命を起こしたわけですが、それは保守化しすぎたアカデミズム画壇への反発がまずありました。実際印象派の画家たちの多くは落選者たちばかりだったのです。そしてもうひとつ、当時の19世紀半ばのフランスの技術革新とも、それは大いに関係があります。

 この展覧会が面白いのは、第二の部屋において、「シスレーが描いた水面・セーヌ川とその支流」と題して、河川工学的アプローチから、たとえば給水塔や、橋、水浴場などを解説していることです。人間の文明の発祥はすべて、川沿いにおいて出現しています。川における風景にこそ人間の真実の生活や歴史があり、フランスのセーヌ河は、まさしく印象派たちの画家たちの出現前夜の19世紀半ばに、船を運航するよう技術改良され、自然河川から近代航路へと、大いなる「近代化」の変貌を遂げたのです。

 シスレーらが「河」を題材に選んだのは、牧歌的な田舎の風景を映し出すためではなく、それが異変していく人間の姿をまさしく映しだし、文明によって早々と移ろっていく「一瞬の光景」を描く格好の素材だったためにほかなりません。

               ※               ※

 もうひとつ今回の展覧会で、重要なポイントがあるので書いておきますと、それはシスレーとモネら、ほかの印象派たちとの違いについてです。

 印象派の最大の巨匠とされるモネは、あくまで光を捕えようとした画家です。しかし、同じ教会を描いても、シスレーは「風景としての教会」を描いています。晩年のモネ は代表作の「睡蓮」が象徴的なように――これは彼の視力が失われていったことと実は関係がある、といわれてもいますが――、輪郭線が曖昧になり、色彩が強 まって、描かれた対象の形状を希薄化させる手法に変化しましたが、それがその後に出現してくるモダニズム以降の画家たちに絶賛され、「抽象画の先駆者のひとり」といわれて、印象派の誰よりも評価が高まったのです。

 しかし、シスレーはモネほど偉大ではなかったのか。

 彼は終始フランスの郊外の空と水辺の風景を描きつづけました。モダニズムに背を向け、自身の進化や美術の発展を拒むかのように、素朴な風景画家として留まりつづけました。そこにはどのような意味合いがあったのか。それを実際に自分の眼で確かめるいい機会の展覧会だったと思います。

 

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 アルフレッド・シスレー 「レディース・コーヴ、ラングランド湾、ウェールズ」 (1897 油彩・カンヴァス)

 ぼくが今回の、国内コレクション20点を中心にしたこのシスレー展において、最も気に入ったのは、この作品でした。しかし、これはフランスを描いたものではなく、イギリスの南ウェールズを描いた作品なのでした。シスレーはほかにも3点、この場所を描いています。沿岸という題材も非常に珍しいのですが、傑作だと思いました。

 ほかにも、シスレーの地を訪ねた日本人画家、と題して、日本の洋画家の作品も展示され、規模は小さいですが、どのシスレーの絵も傑作ぞろいの展覧会だったと思います。

 

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