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逆境の絵師 久隅守景 サントリー美術館へ行ってきました その1

 

 六本木・東京ミッドタウン・ガレリア3Fで、10月10日(土)~11月29(日)まで開催されている、「逆境の絵師 久隅守景 親しきものへのまなざし」の展覧会へ行ってきました。

 久隅守景は江戸時代を代表する絵師のひとりです。国宝に指定されている、この作品を知っている方は多いのじゃないかな、と思います。

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「納涼図」 久隅守景 (江戸時代・17世紀)

 瓢箪の実る下で、家族が夕涼みをしている、何気ない日常を描いた絵です。江戸時代の武将であり、歌人でもあった、木下長嘯子の「夕顔の咲ける軒端の下涼み男はててれ女はふたの物」の歌を題材に描いたものだといわれています。

 幕府のお抱え絵師集団である「狩野派」の中期を代表する、永徳以降、最も達者であった、――その探幽はぼくも大好きな絵師ですが――、狩野探幽に久隅守景は師事をしました。謎の多い絵師といわれています。その出生、没年など、わからないことが多いのです。同時に、その人生もかなり波乱万丈です。

 

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www.suntory.co.jp

 展示は「第一章 狩野派からの出発」「第二章 四季耕作図の世界」「第三章 晩年木の作品―加賀から京都へ」「第四章 守景の機知―人物・動物・植物」「第五章 守景の子供たち―雪信・彦十郎」の全部で、五章に分かれています。

 探幽四天王のひとりとして若かりし頃から、その才能を大いに期待されていた守景ですが、ぼくは今回はじめてまとめた形で彼の絵を観ましたけれど、狩野派を継承した達者な描きのひとり、という感じで、それほど若い頃の作品がよいとは、正直思えませんでした。ただ「耕作図」の屏風には、すでに狩野派にはない独特な作風が現れており、目を見張るものがありまして、たとえば「四季耕作図屏風」のひとつは、間違いなく歴史上の傑作に違いないでしょう。

 通常は春から冬へと、屏風を右から描いていく形式なのに対し、守景はなぜだか冬から春へと、逆向きに描いています笑。ぼくが観たのは、珍しく春から冬へと移ろう作風のものでしたけれども。苗の準備、田植え、闘鶏、釣りなどが右の屏風には描かれ、左の屏風には稲刈り、俵づめ、鷹狩り、舟遊びなどの人物や動物の様態が描かれていました。どれもが細やかな筆致で、表現豊かに描かれていることに、心底驚きました。

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 それで、ぼくが今回最も感動した作品がありまして、画像で紹介できないのが残念なのですが、石川県立美術館に所蔵されている「花鳥図屏風」(江戸・17世紀)という、六曲一双の作品です。四季折々の花や動物たちが描かれたものですが、「十二か月花鳥図」は多くの絵師が試みていますけれど、出光が所蔵する酒井抱一のそれが、江戸期の最高傑作だと個人的に長年思っていましたが、それに負けずとも劣らない傑作だったので、度肝を抜かれました。

 一見雑で、シンプル極まりない筆致なんですけど、「簡略性」が守景芸術の「秘儀」なのだ、と確信しました。

 やはり「虎図」という、動物を描いた一幅の掛け軸が展示されてありまして、輪郭線を用いない「没骨法」で、墨がかなりの水気を含んでいました。「花鳥図屏風」に描かれた動物たちもこれと同じで、守景の描く動物たちは、常に視線を放っているのも、また特徴的です。なにかと目を合わせていますし、常になにかを見ているのです。これは他の作品にも実は共通しています。彼は単に題材を絵にしているのじゃなく、人物や動物そのものを生きたものとして、存在している感覚を強く与える絵を描いているのです。

 守景の作品は、身近なものを描き、そこに温かい眼差しがある、とよくいわれますが、ここに彼の傑出した絵師としての「心」があるといって間違いないでしょう。

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「都鳥図」 久隅守景 (江戸時代・17世紀)

 守景は師匠の探幽の姪・国と結婚し、ふたりの子供を儲けました。今回その雪信と彦十郎の作品も展示されてあります。しかし、雪信は探幽の弟子と駆け落ちし、彦十郎は佐渡へ島流しの刑に遭います。守景は狩野派の後ろ盾を失ってしまうのです。

 晩年は加賀藩の前田家の招きで、金沢に滞在します。逆境にもめげず、そこで数々の歴史に残る傑作を生み落していったわけです。

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 日本画の展覧会は、やはり展示変えが、難点です笑

 今回はわずか一か月半余りの展覧会であるにも関わらず、細かく分けると、6度の展示変えが、この「守景展」にはあります。久隅守景の絵を観る機会は、なかなかないので、できればぜんぶの絵を観たいところではありますが、やはり難しいです。

 ぼくは彼の、とりわけ動物や植物の描き方に、とても魅了されたので、このジャンルは幸いにも10/10~11/3と11/5~11/29の前期後期にしかわかれていません。たぶん11月にもう一度サントリー美術館に、足を運ぶと思います。

 ※ 後期の展示会に行った「その2」のレビューはこちらにあります。

mannequinboy.hatenablog.com