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ゲルハルト・リヒター「Painting」 ワコウ・ワークス・オブ・アート へ行ってきました

美術展覧会レビュー

 

 旧東ドイツのケルン出身の現代を代表する世界的アーティスト、ゲルハルト・リヒター(1932―)の「Painting」と名付けられた展示会に行ってきました。

 確かちょうど10年前に、両方とも2005年だったと思います、国内では金沢21世紀美術館と千葉の川村記念美術館で、初の彼の個展が開催された記憶があるのですが、ぼくは行きそびれました。なのでリヒターの作品は企画展や、海外の常設展で数点限りこれまで観た程度ですが、はっきりと衝撃を受けていました。とても気になる現代アーティストのひとりです。

www.wako-art.jp

 リヒターは抽象表現に影響を受け、1960年代から活躍しはじめた画家です。正確にいって、その評価が定まるのは、1980年代から90年代に入ってからのことじゃないか、と思います。彼を有名にした最初の作品は「フォト・ペインティング」と呼ばれるもので、写真をカンバスにぼかして描いた作品で、ぼくが最初に観たものもこの作品でした。彼の抽象表現は、例えばヴィレム・デ・クーニングのように主観的な感情を吐露したり、マーク・ロスコのように鑑賞者に内省を促したりするものではなく、絵画に対する「懐疑」であり、その源泉である光を再考察する、という美術だと思います。

 彼を抽象表現の画家というのは当たりません。リヒターの絵画を理解するには、彼がベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツ出身であることを抜きには語れません。師匠筋にあたる、哲学的美術家といえる、ヨーゼフ・ボイスの影響がやはり大きいといえます。リヒターら、当時の東ドイツ出身の画家たちは、「資本主義リアリズム」と最初は呼ばれていました。

 1980年代は、アメリカではジュリアン・シュナーベルが、ヨーロッパではアンゼルム・キーファーらが、ポロック以降の抽象美術を継承/批判する形で、主観的でありダイナミックな物語性を取り入れた重厚な「新表現主義」と呼ばれる作品を展開させていました。リヒターは後追いしながら、「美術史」を斜め後ろから追いかけていった、といっていいでしょう。彼がその後に評価が高まるようになったのも、至極当然の結果ともいえます。

 そして、一見写真がブレているような作品から、リヒターはさらに、無数の色を配色した「カラー・チャート」、グレー一色にカンバスを塗った「グレー・ペインティング」、色彩豊かな「アブストラクト・ペインティング」、ガラスに風景の残像を残す作品など、カメレオン的に手法を変えていきます。これは作家の「進化」や「技術的発展」ではありません。リヒターの思考は一貫しています。あくまでそれらは虚飾をひっぺ返し、真なる芸術を追い求め、純粋な光を希求する眼差しに満ちています。それはまったく自由なアートなど許されなかった東ドイツに生まれたからこそ獲得できた「豊かな芸術」だ、といえると思います。

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 ワコウ・ワークス・オブ・アートでは、3年ぶり9度目となる個展、ということで、リヒターとの付き合いは長いようです。ぼくは銀座の画廊はわりと知ってるんですが、六本木は疎くて、この画廊は行ったことなかったんで、これからはときどき足を運ぼうと思います。

 今回は世界初公開となる最新の油彩画が8点、ガラスにラッカーで描いた作品が5点、スナップショットの写真上に油彩やエナメルを塗りつけた「オーバー・ペインテッド・フォト」と呼ばれる作品も数点展示されてあり、リヒターの新たなる動向が感じ取れる展示会となっていると思いました。

デイドリーム・ネイション

デイドリーム・ネイション

 

  ロックファンは、ソニック・ユースの『デイドリーム・ネイション』のこのジャケットは観たことがある方が多いんじゃないんでしょうか。

 これ、リヒターの作品ですよ。「おっ」と思った方は、是非行きましょう笑

 無料です。さらに写真撮影が自由です。

 会期は2015年11/10~12/19まで。場所は六本木の麻布警察署近くの飲食店やカフェがたくさん入ったピラミデビルの3Fです。ポストカード等グッズはありませんが、今回のパンフレットは販売しています。

 なお、瀬戸内海の豊島で、リヒターの最新作「14枚のガラス」の一般公開が、2016年の春からはじまるようです。

mannequinboy.hatenablog.com

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